7月18日【6年道徳p4c】心のぬくもりって伝わるの?
この日、NPO法人 適正育成ラボ「ふわっち🄬」から理事長の五十嵐貴子様が当校の探求の対話(p4c)を参観にお出でになりました。ありがたいことです。でも、もちろん参観だけでお帰りいただくわけにはいきませんよね。急遽、五十嵐さんにも子どもたちの対話に参加していただくことにしました。五十嵐さんには内緒だったのですが、さすがですね。すぐに探求の対話(p4c)に対応してくださいました。
教科は道徳。列車の中で、主人公の目の前にお年寄りが立っています。ところが主人公は「どうぞ」の一言が言えなかったため、お年寄りが席に座ってくれることを期待して、そっと席を立ったのです。ところがその開けた席には別の人が座ってしまいました。自責の念に苛まれる主人公。やがて客の数も少なくなってきて、主人公も座ることができました。前を見ると、さっきのお年寄りが座っているではありませんか。さらに、降り際にそのお年寄りが主人公に「ありがとうね」とお礼を言って降りて行ったのです。主人公は嬉しくなって家でその話をしたのでした。というお話。
問いは多くの子どもが考えた「おじいさんが『ありがとう』と言ったのは、主人公の気持ちが伝わったからなのか?」です。では対話を見ていきましょう。
「やっぱり、主人公の気持ちがおじいさんに伝わったから感謝されたんだと思う」
「なんで伝わったんだろう?」
「そうだよ、人の心なんて読めるはずないよね」
「う~ん。全部は伝わらなかったかもしれないけど、半分くらいは伝わったんじゃないの?」
「うん。少なくとも席を譲ろうという気持ちは伝わった」
「そうだね。私が席を譲られたとしたら、やっぱり温かい気持ちになったろうって思うよ」
「ねえ、みんながこういう場合なら、譲る?」
「譲りたいと思う」
「そう。お年寄りなら膝とか悪い人もいるだろうし」
「お年寄とか妊婦とかには譲らなくちゃダメって法律あったんじゃなかったっけ?」
「いや法律にはないよ。でも、マナーとして譲ろうってのはある」
「お年寄りじゃなくて周りの人が座っちゃったんでしょう。この主人公の行動を見て学習してほしい。というか学習するかもね」
「じゃあさ、自分の体調が悪い時にも譲らなくちゃだめだと思う?」
「それはちょっと。ねえ?」
「うん。譲れない事情があるなら別だよね。でもできるだけ譲りたいと思う」
「法律があって、それを守らなきゃダメっていう強制力があるなら当たり前だけど、そうじゃないんだからお年寄りは主人公に『ありがとう』って言ったんだよ」
「みんなに訊きたいんだけど、妊婦とお年寄りの2人が立ってたら、どっちに譲る?」
「ぼくは妊婦だな。だっておなかの赤ちゃんも含めれば2人の命があるからね」
「そうだね。心も2つある。ありがとうって気持ちも2つになるんだよ」
「それと赤ちゃんには未来もある」
「う~ん。ぼくは両方に譲るな。自分が座ってた席には妊婦に譲る。お年寄りが座る席はぼくが立って探すよ」
「私は妊婦。妊婦って気持ち悪くなったりするじゃない。大変だよ」
「私はできれば2人とも座ってほしいと思う。でも1席しかないなら、2人の状態を見て決めるかな」
「こういう場合、ぼくはどちらにも譲らない。だってさ、どちらかに譲ったら、もう一方が怒り出すかもしれないよ」
「ぼくはお年寄りだな。妊婦だったら「妊婦マーク」みたいなステッカーって持ってると思うから、自分が席を譲らなくても、そのステッカーを見た人誰かが譲ってくれると信じる」
「う~ん。まあ、どっちにしても罪悪感はあるな」
「ぼくはお年寄りに座ってもらうよ。妊婦に見えても、ただの太ってる人かもしれないし」
「いや妊婦には運動させた方がいいんだよ。一方年寄は足が悪いかもしれないからね」
ここで教師が介入。新しい観点を提示し、対話を別の視点で進めるよう促します。
「なんで主人公は『どうぞ』って言えなかったんだろう?」
「もしも小さい声で『どうぞ』って言ったとしても、なんだか気まずくならない?」
「気まずくはならないとは思うけど、勇気がなかったんじゃない?」
「そう。『どうぞ』で笑う人はいないよ」
「実は私も勇気が出なくて言えなかったことがある」
「私も。今でも公共の場で言うのは難しい」
「うん。自分の本当の気持ちを言葉で素直に伝えるって難しいよね」
「私もあったんだ。ずっと前なんだけど、ブランコに乗っていて、ブランコに乗りたそうな子がいたの。でもその時、ブランコを降りて『どうぞ』って言えなかった。今なら言えるよ。でも、列車の中で席を譲るのは・・・。まだ難しいかも」
「みんなに訊きたいんだけど、列車の中で『どうぞ』って言えなかったらどうすればいいんだろう?」
「口で言わなくても、頭を下げて、ジェスチャーで示せば分かってもらえるんじゃない?」
「あとね、目線を合わせる」
「ああ、そうだね。お辞儀をして目線を合わせてジャスチャーもすればいいのかも」
「でもさ、言葉でもジェスチャーでも、言いたいことは100%伝わらないと思う」
「手話が分かる人だったら、手話で伝えるってのもありかも」
教師「ジェスチャーで伝わるんなら、言葉で言う必要はないよね」
「確かに」
「『どうぞ』は気持ちを表す言葉。ジェスチャーは勇気を出せない時に使う。だから『どうぞ』って言うのが一番いいんだけど、それができないならジェスチャーで」
「その時々で言葉で言うか、ジェスチャーをするか、選ぶしかない」
「ねえ、ちょっとみんな、教科書見て!ほらこのイラスト、主人公は席を立った後、お年寄りに目線を合わせてるよ」
「あっ、ホントだ!」
「お年寄りは席には座れなかったけれど、主人公の気持ちはその目線で伝わったんだ!」
おおおおおー!なんとー!よく見つけましたね、このお子さん。超ファインプレーだわ。
「だから、おじいさんは主人公に『ありがとう。座らせてもらいましたよ』って言えたんだ」
「目で気持ちを伝えてたのかあ」
教師「ねえ、みんな。ほかの人の問いで「『ありがとう』の一言で何で心が温かくなるんだろう」ってのがあった。みんなはどう思う?」
「自分の行動がよかったって分かったからだと思います」
「『どうぞ』って言えなくて、おじいさんはすぐに座れなかったけど、気持ちは伝わったんだと思います」
「『ありがとう』って心のぬくもりが感じられる言葉。私も今度から必ず、『ありがとう』って言うことに決めた!」
「『ありがとう』ってさ、言った人も、言われた人も、両方いい気持ちになる言葉だね」
最後にふわっちの五十嵐さんを対話にご招待。
「おじいさんが『ありがとう』って言うのも、勇気が必要だったと思うよ。それとね、相手の優しさに気付けるってのも大事だと思います」
いやー、参りました。私、今、文字起こししてて、目頭が熱くなっちゃいましたからね。
もう言葉はいらないでしょう。なのでジェスチャーで。うそうそ。
五十嵐さん、ありがとうございました。6年生のみんな、素敵な対話をありがとう!